『骨の記憶』
楡周平と言えばデビュー作の『Cの福音』があまりにも有名だが、楡周平の作品の中では『骨の記憶』が、一番僕には衝撃的な作品だった。
6月から多忙な日々を送っているので、さすがに本を読む時間が潤沢では無くなったが、そのぶんかなり手にする本を絞って読んでいる。一関と東京を舞台に描かれたこの作品は、楡の社会に対する怨念とでも呼ぶべき毒矢が、本の表紙を突き抜けて読み手の心に突き刺さってくる。はっきり言って読後感は悪い(苦笑い)。
農村の貧困の中で、富めるものと貧するものの光と影を、楡はこれでもかと小説の中で引きずり回し、毒々しい切り口をさらけ出してくる。
都会の中で蠢く若者たちの赤裸々な欲望を、息を飲むようなどんでん返しで、楡は構築していく。書き手の技量の凄さを読み手に与えてくる作品だ。
東京からやってきた主人公が、一関の駅に四半世紀ぶりに降り立った心情は、かつて、都落ちしてきた自分の心情と重なるものがあった。
多くの別離や悲しみ、そして忘却することができない青春時代の想い。都会に出て行った人間が故郷を思う時、彼らの望郷の念は、きっと骨の中まで記憶されているのかも知れない。
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