祈り
凍えていた大地はようやく眠りから目覚め、
一抹の不安もなく 生きものたちは夜明けを待っている。
かりそめの住みかに固執する人間たちをからかうように
空を舞う鳥たちはその自由さを鼓舞し 高度を上げる。
ありふれた日常こそ自然の織りなすリズムなのだ。
川の流れも、山に吹くさざ波のような風も、
生きとし生きるものたちの命の祈りのようであり、大地の息吹のようだ。
忘却のかなたに置き去りにしてきた無数の残像をいとおしむ老人のように、
この星もかつてあった穢れのない風を思い出しているのかも知れない。
果てしない自然の営みのなかで、
都合よく人間に約束されるものなどなにもないのだ。
陽が昇りそして沈み、潮が満ちそして引いていく。
冬が終わり春が来るように。
冬枯れた風景の中で、
目覚めつつある命たちのざわめきが押し寄せてくる。
幾種類かの山鳥たちの声が空に放射され、
キジが鳴き、その声に呼応するかのように山鳩が鳴き、鳶が鳴き、
そしてホオジロが鳴いた。
残雪が光を放つ北壁の山々に視線を向けると、
幾千年も変わらない畏敬の姿があった。
飛翔する命と生まれくる命
お互いの祈りが、新たな季節を到来させる。
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