石田衣良『約束』
先月から石田衣良の小説にハマっているが、今日もまた彼の小説を紹介したい。
2004年に出版された短篇集『約束』は、涙なくして読むことが出来ない作品だ。家族に突然降りかかる悲しみ、命のはかなさと命の愛しさが、読み手の感情をこれでもかと揺さぶって来る。
一緒にいて当たり前の家族の存在が、突然終ってしまう悲しみ。僕らは、その時何を思い、何を考えるだろうか。
人は誰もが死を迎える。それは予測が出来ないこと故に、残されたものが消化するにはとても複雑で多面的だ。
石田の作品は、他界した魂を主人公の救済の担い手に据え置くことで、喪失感の風穴を埋めていく。癒やしがある悲しみのドラマだ。
僕は魂の存在を否定しない。肉体の死が存在の終焉だとは思っていない。生きることにも死ぬことにも、すべてに意味がある。
生まれ来る命、去りゆく命、そのダイナミックな営みは、地球の営みであり、宇宙の意志だと思っている。僕らは輪廻転生の中で、失われた時代を修復し、新たなドラマの土台を築いて行く。
幸せな人生や、不幸せな人生が仮にあるとすれば、それは生き方の違いではなく、想いの違いだ。僕らはどう生きるかに重点を置きすぎて、自分の命の個性に意識がいっていないのではないだろうか。
失ったものは、戻っては来ないかもしれない。しかしその喪失さえも人生には意味がある。そう考えれば、決して無駄な人生などない。言葉が、視線が、そして存在が、宇宙を創造していく。僕はそう思っている。
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