失った時間の堆積は、やがて思い出の中で覚醒する
夏の空を見ていると、遠い昔の少年時代を思い出す。
汗をかいて、夏の空気を一杯吸いこんでいたこどもの頃の息遣いと、甘酸っぱい汗の匂いがよみがえってくる。
どこへ行こうとしているのだろう。誰を待ち続けていたのだろう。
蝉しぐれのなかで、めまいのような光が過去と未来を交差させ、僕は夏の迷路に立ちすくむ。
いつまでもいつまでも夏が続くわけじゃないのに、まるで時間を無視したような、大胆なそして誘惑的な少女たちの無垢な輝きに、僕はうつむいていた。
多くの物語が夏の日ざしの中で生まれていく。小さなこぶしを空に突き上げた少年は、そのやるせない矛先を一体どこへ隠してしまったのだろうか。
失った時間の堆積は、やがて思い出の中で覚醒する。
大人になってから、忘却からはみ出してきた少年の頃の光や風は、予想もしていなかった場所に突然咲いたひまわりの花のように、僕を驚かせる。
また夏が過ぎて行く。
僕の中の少年たちは、今でも一生懸命夏を追いかけている。凝りもしないで。
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