ヘルマン・ヘッセの水彩画
高校に入った最初の夏休み、僕がはまった作家がいたのだが、それはヘルマン・ヘッセだった。僕の16歳の夏は、ヘルマン・ヘッセと共に過ぎて行ったと言っても過言ではない。
彼の代表作である『故郷』『車輪の下』『デーミアン』『荒野の狼』『シッダルダ』など、今でも本屋さんで文庫本の背表紙を見ると、青春時代の甘酸っぱい想い出とともに、ヘルマン・ヘッセの醸し出すアンニュイと言うのか、切なさと言うのか、自然や宇宙の中の人間の孤独や青春に生きる主人公達の苦悩の息遣いが、僕の脳裏に去来する。
そしてあの時から40年弱の歳月を経て、最近僕はヘルマン・ヘッセの本を手にして読んでいる。V・ミヒェルス編による『庭仕事の愉しみ』というヘルマン・ヘッセの日記的エッセイ集だ。
彼は後半生、執筆に費やす以外の時間をほとんど自分の庭で過ごした。庭と言っても本の写真で見ると広大な土地だ。
地味な趣味のように思えるが、彼は畑仕事や剪定の仕事の中に、彼の文学の種となる小宇宙を発見したのかも知れない。
僕も他界した父の農地を引き継ぎ、20代の後半から百姓仕事をしてきたが、身体を使う百姓仕事は、ややもするとバランスを崩しそうになる軟弱な僕の精神を何度となく救ってくれた。きっと塾だけの日常では、今の僕は存在していなかったかも知れない。
ヘルマン・ヘッセはもちろん近代の偉大な文筆家であるが、水彩画家としても非凡な才能を持っていた。
この絵は僕が塾の教室に飾っているハクモクレンの水彩画だが、ヘルマン・ヘッセの作品である。静謐な緊張感と自然に対するそこはかとない優しさを感じる。まるで彼の小説のようだ。
大げさに聞こえるかも知れないが、この絵を教室に飾ってから教室の空気感が変わった。
この水彩画をはじめ多くのヘルマン・ヘッセの水彩画が、『庭仕事の愉しみ』の本の中に紹介されている。草思社から出版されている。夏にふさわしい一冊かも知れない。
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