忘れられない言葉
お盆の帰省も終わり、田舎にあふれていたいた若者たちが都会に戻っていった。
僕は塾教師をやってきて、楽しいことも多いけれど、一応人間なので他人の言葉に傷つくこともある。それが教え子の言葉となるとなおさらだ。
5年前の夏の話である。市内の居酒屋で教え子のM君と久しぶりに会っていた。彼はその前の年、お父さんを亡くしていた。初盆の供養も終わり、東京に戻る前に今後の身の振り方など、頼りになる僕ではないが、相談相手に僕を選んでくれて、しみじみとした酒を飲んでいたのである。
店内で盛り上がっている集団がいた。ふと見るとその中に卒塾生の女性が混じっていた。彼女は高校生の時に1年ほど在籍した元塾生で、地方の国立大に入った女性だった。
彼女は僕を見つけると声をかけてきてくれた。大学を終えた後、某旧帝大の大学院で社会学の研究をしているのだと報告してくれた。別れ際に発した彼女の言葉に僕は言葉を失った。
「先生、学歴は大切ですよ。まだ塾教師をやっているんですか」
少々酒が入っていた彼女ではあったが、僕は彼女の本音だろうと思った。「まだ塾教師をやっているんですか」僕は何日間か彼女のフレーズの真意を考えていた。
彼女の言葉は、塾教師などをやってないでもっとステップアップした仕事に就いたほうがいいよと言う、僕に対する励ましの言葉だったのだろうか。それともあんまり考えたくはないが、単なる傲慢からでた言葉だったのだろうか。
確かに僕は塾生たちがいい大学に入り、いい仕事に就くことは、嬉しいことだ。そのために塾をやっていると言っても過言ではない。子どもたちの踏み台になって行くことにある種のプライドがる。それは塾教師としてのプライドと言ってもいい。
僕も彼女に言いたい。教え子であるあなたに、僕も負けない人生を歩んでいくよ。
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