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2008年11月13日 (木)

ブルースが聴こえる

町外れの居酒屋の上がり階段で、バーボンを傍らに置き、擦り切れたジーンズとよれよれのコットンのシャツを着た黒人の老人が無精ひげの口をとがらせて、ガットギターを片手にブルースを歌っている。

歌っているというより、がなりたてているしゃがれた声は、酒でつぶれた喉のせいか、南部なまりのまったくもって歌詞など聞き取れないひどい英語だ。ミシシッピー川からふいてくる風は、もう秋のにおいがする。綿花畑もとっくに収穫が終わり、黒人の労働者達も、何がしかのお金を手にしたのだろう、陽気に昼間からバーボンを飲んではしゃいでいる。

日本から船便で持ち込んだ軽トラックの中には、これまた日本から持ってきた安物のギターが入っている。私はそのギターを片手に握りしめ、老人のそばに歩んでいった。私はデニムのジャケットのポケットからウイスキーの小瓶を取り出し、老人に差し出した。

彼はタバコのヤニで黄色くなった歯をにっとさせ、ウイスキーを一口二口煽ると、瓶を私に返してよこした。「一緒にギターを弾いていいかい」と私が声をかけると。彼は頷いて、彼のおはこであるだろうブルースを弾き始めた。老人の押さえる指のポジションを、自分のギターで押さえてみるのだが、残念ながら音が合っていない。

Gコードのはずが、ディミニッシュの音が混ざったり、Aフラットのはずがマイナーの音になったりしている。私は単音でミュートしながら、音を追っていった。

老人のけだるいフレーズが繰り返されたかと思うと、老人は急にシャウトし始める。彼のだみ声の英語の歌は、私のリスニング能力ではなかなか聞き取れない。時々聞き取れる単語を繋ぎ合わせて想像してみると、どうやら遠くに住む息子夫婦の生活ぶりを自慢している歌のようだ。

彼のしわだらけの顔が、誇り高き表情になった時、彼の歌を聴きながら私は日本に残してきた家族を思っていた。

オバマ氏が次期アメリカ大統領に決まった日、私はこんな夢を見ていた。

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