北の大地
凍てつく北風が吹き抜けた冬もようやく終わり、暖かい日差しが北の大地をつつみ始めた。奥羽山脈を源流とし、東北の穀倉地帯を潤し続けてきた北上川も、この季節雪解け水を集め、大らかな雄大な流れを呈している。
多くの文学者や詩人を育んだ岩手の風土。この冬から春への季節の移り変わりを眺めていただけでも、風景が言葉を生み、風が詩を誘う。
原風景という言葉があるが、その土地土地に流れ込む歴史観や、人間性、そして風景までもがそこに生まれ育ったものに、はかりしれない影響を与えていく。
今年も多くの若者達がこの故郷を離れ、東京に旅立っていく。大学生活や社会人としての一歩が、異郷の都会で始まる。多くの若人が夢と希望を抱き旅立っていくこの季節、私はいつも思い出すことがある。
私が小さかった昭和30年代、中学を終えたばかりの少年や少女達が、集団就職で東京に出て行った。近隣の家でも多くがそうであった。
出発の日、目を真っ赤にした学生服姿のお兄さんやお姉さん達を、わけも分からず見送ったのを覚えている。今思えば、かばん一つ持たされ、わずか15歳で親元を離れて東京に向かう思い、そしてそれを涙を呑んで送り出す両親の思いは、いかほどであったろうか。
彼らの望郷の思いが、都会で生き抜く力となり、奇跡と言われた日本の高度経済成長を支える柱となったのだと確信している。
都会の喧噪に疲れたとき、私も若い頃そんなことがあったが、ふと故郷に帰り、小さい頃から親しんだ山や川の風景を眺めたいと思ったものだ。
夢を追い求めて東京に出てきた若者、その若者達がネットカフェ難民になっている姿は痛々しい。
北の大地に春が来ると同時に、都会に旅立つ青年達。その群像に幸多からんことを願わずにはいられない。
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